アカデミー賞残念!「潜水服は蝶の夢をみる」
E S A R I N T U L O M・・(まばたき)・・M
E・・(まばたき)・・・・・E
E S A R・・・(まばたき)・・R
・・・・画面を見つめながら、無意識に指でつづりを綴っていた。
E S A R I N T U L O M D P C F B V H G J Q Z Y X K W
フランス語における単語を作る使用頻度順だ。
順に読み上げて、単語のつづりの文字を読み上げたらまばたきをして知らせる途方も無く時間のかかる繰り返し。
重篤な脳卒中の発作から、全身麻痺の難病のになった雑誌「ELLE」の名編集長ジャン=ドミニク・ボービーの自伝を映画化した「潜水服は蝶の夢をみる」。
20万回のまばたきの繰り返しでつづった“生”へのメッセージ、“生の輝き”を映画化したのは、ジュリアン・シュナーベル監督だ。
<ネタバレあり!>
漆黒の闇の画面が、徐々に色鮮やかにボーッと人らしき形になる。
焦点がぼけている。
我々は、ジャン=ドミニク(マチュー・アマルリック)の目、視点になってあたりを見渡す。
焦点があっていない。
どうやら病室のようだ。
カメラがジャン=ドミニクの目になっている。
医者達が話しかける内容は分かっているが、答えようにも声が出せないもどかしさ。
「ロックト・インシンドローム」は、ほぼ全ての運動機能が麻痺する、脳梗塞中でも重度の難病らしい。ジャン=ドミニクは、どうやらこの希少な難病にかかって、唯一動かせるのは左目だけになってしまったのだ。
言い知れぬ孤独の海の中。
ベルクの海のそばの病院で治療が始まる。
医者が、ジャン・ドーと主人公を呼びかけた時にはビックリした。
いつから「名無しの権兵衛さん」になってしまったのだと思ったら、ニックネームらしい。
さらに右目の目蓋までが縫い付けられる。
眼球から見た縫い付け手術のシーンが不気味だ。
「止めてくれ」と怒鳴りたいのに、何も言えない。
もし、わが身が同様の難病に罹ったら失意のどん底に陥るだろう。
生きる屍と化すのではないだろうか。
ファッション誌「ELLE」の華やかな世界から、一転して植物人間と化す。
このままならぬ肉体を、潜水服に閉じ込められたようだとジャン=ドミニクは例えている。目と鼻の先に美人の言語療法士アンリエット(マリー=ジョゼ・クローズ)と理学療法士マリー(オラツ・ロペス・ヘルメンディア)がいても、文字通り手も足も出せないのだ。
エンタメ・ポチはMRIで閉じ込められた経験=閉塞感を思い出した。
病院の言語療法士によって、外界とのコミュニケーションの練習が始まる。
それは、左目のまばたき。
まばたき1回が、「はい」
まばたき2回で「いいえ」。
単語終了時も2回のまばたき。
もどかしい。実にもどかしい。
「死なせてくれ」
自分自身を回想するときにバッハの「ピアノ協奏曲第5番へ単調」が流れる。
いつ潜水服から抜け出せるのか?
想像力と記憶力だけは蝶のように自由に羽ばたけるとジャン=ドミニクが気づく。
ニーノ・ロータの「ナポリの億万長者」が、ジャン=ドミニクの気持ちを表現している。
出版契約を交わしていたことを思い出し、出版社から編集者のクロード(アンヌ・コンシニ)を派遣してもらう。
まばたきで交わす会話、まばたきで綴る文章。色鮮やかな思い出の数々。
3人の父親でもあるジャン=ドミニクが、父の日に子供達やその母親セリーヌ(エマニュエル・セニエ)と海岸で過ごすシーンが何とも涙を誘う。
また、年老いた父親パピノ(マックス・フォン・シドー)の髭をそる回想シーンや、誕生祝に父親が電話をかけてくるところも泣ける。
不自由な身になってやっとわかった家族への愛が、詩情たっぷりに色鮮やかに描かれる。
希望を胸に、本をまばたきで綴るジャン=ドミニク・・・・。
このジャン=ドミニクは、当初はジョニー・デップのキャスティングだったそうだが、「パイレーツ・オブ・カリビアン」の撮影で出演できなくなったそうだ。
次に白羽の矢が立ったのが、「ミュンヘン」で演技力を評価されたマチュー・アマルリック。
彼は、左目でしか演じられないジャン=ドミニクや、アムールに生きたジャン=ドミニクを見事に演じていた。
U2「ウルトラ・ヴァイオレット」や「大人は判ってくれない」、エンドロールのトム・ウェイツの「グリーン グラス」など、音楽が全編で効果的に使われていてGOOD!!
「潜水服は蝶の夢をみる」の良さを全身で体感して欲しい。
この作品を車椅子に乗った方が鑑賞されていたが、彼は何を思ったろうか。。。。
車椅子に乗ったジャン=ドミニクが、波間の艀に1人ただずむシーンが幾度も挿入されたが、そのたびにジャン=ドミニクの言い切れぬ「孤独と絶望」を感じた。
ジャン・ドー。。。いつ我々がなってもおかしくない。
いや、身体機能が動かせても、思考が潜水服を着たままでいることが無いだろうか。
カンヌ国際映画賞・監督賞受賞など、数多くの賞を受賞、本日の第80回アカデミー賞の監督賞、撮影賞、脚色賞、編集賞などにノミネートされたが惜しくも受賞を逃した。
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